新型コロナウイルスの感染拡大などで、前作の「麒麟(きりん)がくる」が異例の越年放送となったため、スタートが1カ月あまり遅れていた今年のNHK大河ドラマ「青天を衝(つ)け」(総合・日曜午後8時など)が14日から、いよいよ始まる。主人公は2024年度から1万円紙幣の図柄になる渋沢栄一。幕末から昭和初期まで、激動の時代に何度も挫折を経験しながらも未来を切り開いていく姿を、今伸び盛りの俳優、吉沢亮さん(27)が演じる。栄一に“日本資本主義の父”という知識はあっても、どんな人生を実際に送ったのかまで知っている人は少ないだろう。さまざまな工夫を取り入れ、渋沢のエネルギッシュな生きざまを躍動感のある映像で伝える、フレッシュな印象の大河ドラマになりそうだ。第1回の内容を試写で見た記者が、「青天を衝け」の見どころを紹介する。【佐々本浩材】
ナビゲーターは徳川家康?
第1回でまず驚くのが、オープニングでいきなり徳川家康が登場すること。2023年の大河ドラマに決まったばかりの、松本潤さんが家康を演じる「どうする家康」がもう始まった?と一瞬考えてしまうようなスタートだ。主役は渋沢栄一なのに、なぜ生きた時代が全く異なる家康が登場するのか。しかも演じるのはベテランの北大路欣也さんだ。第1回だけでなく、ドラマのナビゲーターとしてほぼ毎回登場するという。
この大胆な仕掛けを提案したのは脚本を担当した大森美香さん。「渋沢栄一さんが生きる江戸時代から現代までを俯瞰(ふかん)して(視聴者と)一緒に見られる方が欲しいと思った」と狙いを明かす。最初に提案したところ、スタッフは「ザワザワ」していたため、とにかく「家康で書いてみます」と執筆を進めたところ、大森自身も「この時代を描くのに、すごく腑(ふ)に落ちる」と思ったという。
「幕末で江戸時代を閉じるという意味では、どうやって江戸幕府を開いたかということがとても大事。そこから俯瞰して見るにはどうしたらいいかと考えたとき、家康さんにその役割をやってほしいと思ったんです」
制作統括の菓子浩チーフプロデューサーによると、江戸幕府の最後の将軍、徳川慶喜は家康を尊敬していたという。渋沢が生まれた武蔵国血洗島村(現在の埼玉県深谷市)でも、東照大権現として家康が人々から敬われていた様子がドラマに登場する。「幕府を作るのも大変だが、閉じるのも大変。どうやって幕府を閉じ、明治の新しい時代を作るか。台本はこれからだが、その時、家康がどういう言葉で語りかけるのだろうか」と菓子チーフプロデューサーは今後の家康の描かれ方に期待する。
また、家康を登場させることでもう一つ別の効果もあるという。「幕末期というのは非常に複雑で、ややこしい。薩摩や長州、佐幕派など、見る視点によって大きく史実の解釈が変わるが、家康さんが物語をいざなってくれると見やすくなる。そういう役割で語っていただきます」と菓子チーフプロデューサーは説明する。
過去に大河ドラマ「江~姫たちの戦国~」(11年)などで家康を演じてきた北大路さんだが、今回の出演依頼は非常に戸惑ったようだ。「『なぜ幕末に、なぜ渋沢栄一のドラマに家康が?』。ええ、そうでしょう。僕も思いました」と、そのときの驚きを表現する。
「今回の役割は、僕にとってまったく経験したことのない挑戦です。だからオファーをいただいた時、実はものすごく悩みましてね。しかし何と言っても、家康様です。徳川家康への思い入れは強くあるし、せっかくいただいたご縁を大切に、ぜひ挑戦させていただこうと決めました。まるで孫を見守るような思いでドラマに寄り添いつつ、みなさんと同じ時間を共有できればと願っております。さあて、いかがでしょうか?」
第1回は、物語が始まる幕末の時代背景を、北大路さん演じる家康が年表を使って説明。ドラマの途中にも瞬間的に登場する場面がある。今後はどんな場面で、家康が何を語るのか。ドラマの大きな注目ポイントになるのは間違いなさそうだ。
吉沢亮「新しい扉がバンバン開いています」
栄一というと、91年の生涯で約500の会社の設立や経営に携わり、民間人として日本の資本主義のスタートをリードした人として知られる。東京電力、東京ガス、主要な銀行、JR、アサヒ・キリン・サッポロのビール3社など、栄一が関わった会社は今も私たちの生活を支えている。
そんな栄一だが、その生涯が広く知られているとはいえない。藍玉づくりと養蚕を営む富農の家に生まれたが、当時の身分制度への怒りから尊皇攘夷(じょうい)運動に身を投じ、挫折を経験。その後、京都で一橋慶喜に仕官し、財政改革などでその力を発揮する。やがて慶喜は第十五代将軍となり、栄一も幕臣となる。
その後、慶喜の弟、徳川昭武に随行し、パリ万博に参加。見聞を広めた栄一は帰国後、明治政府で働いた後、実業界に転身。第一国立銀行など、多くの会社の設立に関わる。時代の荒波の中、倒幕の志士から幕臣、明治新政府の役人、実業家と立場を変えつつ、波瀾(はらん)万丈の人生を生き抜く。
「若い頃はジェットコースターのような波乱の人生を送り、一歩間違えば死んでいたような体験もするが、懸命に生き抜いた人。調べれば調べるほど面白いし、かっこいい。でも『こういう人』と一言では言うのは難しい」と演じる吉沢さんは語る。
第1話の5歳の渋沢は、おしゃべりで、非常に強情。駄々をこねては大人たちを困らせる。そんな渋沢に、母のゑい(和久井映見さん)は人として大切なことを諭すように教える。「かわいらしいし、アホなところもあるんだけど、人を見る目はある。実業家として成功する前からそうした予感はあったんだと思う。彼のそういう部分を見てほしい」
吉沢さんいわく、栄一は裏表がなく、思ったことが素直に表に出てしまう「チャーミング」な性格。確かに第1回を見ても、親近感が湧く、非常に気持ちのいい人物として描かれる。
「ここまで感情をありのままさらけ出すような役は初めて。これまで暗い性格の人や、陰がある人を演じることが多かったので、裏表のない今回のような役は新鮮。ただ、そのまま演じてしまうと、漫画のキャラクターのようになってしまうので、すごく難しい。栄一の『芯』の部分は何なのか。演出の黒崎博さんと話し合いながら、役をつかんできました。でも今の吉沢では太刀打ちできない役。他の俳優さんとお芝居をするなかで、体になじんでくる感じがしています。自分の新しい扉をバンバン開きながら進んでいます」
演出の黒崎ディレクターはそんな吉沢さんの演技について「毎シーン、まっさらで飛び込んできてくれている。今まで見たことのない吉沢さんの姿をお見せできると思います」と語る。
徳川慶喜を演じるのは草彅剛 「カリスマ性」で起用
今回の大河のもう1人の主役ともいえる大事な役が、江戸幕府の最後の将軍となる徳川慶喜。栄一は慶喜との出会いで大きく運命が変わっていく。明治になり、実業家として成功した後も、栄一は慶喜の暮らしを支え続け、明治維新の際の慶喜の真意を正しく後世に伝えたいと伝記「徳川慶喜公伝」も刊行する。
大森さんは「渋沢さんを調べていくと、たくさんのことをしている人で、一言で言うのが難しい。一本筋が通っているのは慶喜を一生、主君として立てていたこと。人間としてうそがなく、そこが渋沢さんに魅力を感じた部分だった。その部分をできるだけ丁寧に最後まで描きたい」と熱く語る。
慶喜を演じるのは元SMAPの草彅剛さん。第1回の冒頭で、のちに栄一と慶喜が初めて出会うシーンが登場する。
道の脇に控えていた渋沢栄一(吉沢さん)と、いとこの渋沢喜作(高良健吾さん)。馬で駆けていく慶喜主従を見つけると、走って、その後を懸命に追う。栄一が呼びかける声を耳にした慶喜は馬を止め、発言の意味を問い詰める。
吉沢さんは、まだほとんど草彅さんと話をする時間も取れていないというが、「草彅さんのたたずまい、持っているオーラがとにかくすごい。こちらが一方的に(自身の)熱量をぶつけるシーンだったのですが、負けられないとより熱量が増しました。草彅さんのおかげでいいシーンになりました」と振り返る。
一方、草彅さんも「吉沢くんとこれからすてきなシーンが生まれるんじゃないかと思っています。ドキドキワクワクできる作品なので、日本中の皆さんにお薦めいただけるとうれしいです」と意気込みを語る。
菓子チーフプロデューサーは、草彅さんを起用した理由を「語らなくても、物語を引っ張ることができるカリスマ性」という。
「以前、草彅さんの舞台などを拝見して、役が乗り移っているような演技に胸を打たれたことがあり、一緒に仕事をしたいと思っていた。慶喜は将軍になりたかったのか、なりたくなかったのか、徳川を残したかったのか、残したくなかったのか、すごく分かりづらい、はっきり色分けができない人物だが、この物語では渋沢の運命を変えたキーパーソン。前半の映像を見ているが、草彅さんの慶喜は、時として冷たいようであっても父親への思いがあるなど、微妙な心の機微をうまく演じてくれている。弓を射るシーンなどでの立ち姿も美しい。慶喜は草彅さん以外考えられないと思うくらいはまっている」と語る。
走る 走る 走る
今回の大河は、走るシーンが多くなりそう。若い栄一が、時代を真っすぐに疾走していく躍動感が映像から伝わってきて、見ていてワクワクさせられる。
例えば、前述した栄一と慶喜の出会いのシーン。栄一はまげを揺らし、汗を飛ばしながら、全力疾走で慶喜の馬を追う。「いろんな角度やドローンでの撮影もあったので何回も走りました。今回の栄一は何かあるたびに走らされているので、足腰が強くなったんじゃないかと思います」と吉沢さんは苦笑する。
栄一が生まれた幕末の農家とその周辺を広大なオープンセットで再現。第1回では、栄一ら子どもたちが村内を駆け回り、近所の家へと向かう姿を、上空から見下ろすドローンの映像も使って描く。躍動感あふれるシーンに仕上がり、印象に残る。
日本に開国を求め、押し寄せるようになった外国船に対抗しようと、水戸藩が大砲を製造し、軍事教練を行うシーンも第1回の見どころだ。多くの武士が勢ぞろいする中、徳川斉昭(竹中直人さん)の息子でのちの慶喜となる七郎麻呂(笠松基生)がさっそうと登場する。
一見、エキストラを大量に動員した野外ロケのように見えるが、新型コロナウイルスの感染対策で、実際にはエキストラがまばらにしか立っておらず、ほとんどの人はCG(コンピューターグラフィックス)だという。同じようにCGで補ったり、別のシーンで表現できないか考えたりしながら進めているため、制作には例年より時間がかかっているという。
脚本は「あさが来た」の大森美香 ディーンの五代も再び
脚本の大森さんは、竹内結子が主演した「不機嫌なジーン」(05年、フジテレビ系)など人気ドラマを多く手がけてきた。連続テレビ小説は、村川絵梨さん主演の「風のハルカ」(05年度下期)と、波瑠さん主演の「あさが来た」(15年度下期)を担当したが、大河ドラマは初めてだ。実業家で教育者の広岡浅子をモデルに女性の生涯を描いた「あさが来た」は、連続テレビ小説では珍しい、江戸時代末期から始まる物語だったが、放送期間の平均世帯視聴率は23.5%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と、連続テレビ小説で今世紀最高の視聴率を記録した。今回もほぼ同時代、同じ経済人を描くドラマで期待は大きい。
第1回には、「あさが来た」でヒロインの夫、白岡新次郎役を演じた玉木宏さんが、洋式砲術家の高島秋帆役で登場。栄一に激動の時代が迫っていることを伝える重要な役回りだ。
また、「あさが来た」で大阪経済界の重鎮となる五代友厚役を演じ、一躍ブレークしたディーン・フジオカさんが、今作で再び五代を演じることが発表され、ファンを喜ばせている。
大河初出演のディーンさんは「『あさが来た』の時と同じ五代友厚役を再び演じる機会をいただいたことを心からうれしく思うと共に、時を超えた不思議な縁を感じております。日本の近代史において『西の五代』が『東の渋沢』とどう関わり、大阪経済復興に身をささげたのか。その力強い生きざまや、成し遂げた偉業について、視聴者の皆様と共に更なる理解を深めていけるよう『五代さん』を全身全霊で演じます」とコメントしている。
血洗島と江戸の物語が相互にリンク
また、今回の大河は前半、「血洗島パート」と「江戸パート」で構成される。「血洗島パート」では、栄一の成長とともに当時の農民の暮らしぶりを、「江戸パート」では、押し寄せ始めた時代の波に翻弄(ほんろう)される江戸幕府や水戸藩の対応を描いている。
「江戸パートは当時起こっていたこと、社会背景を見せるだけではなく、二つのパートの内容がリンクし重なり合ったりするのが大森さんの脚本の妙」と菓子チーフプロデューサーは説明する。
たとえば第1回は、周囲の大人をその強情さで困らせている栄一の成長を見守る父親の市郎右衛門(小林薫さん)の姿を取り上げた「血洗島パート」に対し、「江戸パート」は息子の七郎麻呂(のちの慶喜)を将軍にしたいと願う徳川斉昭(竹中さん)にフォーカスし、御三卿の一つ、一橋家の養子になる話が決まり喜ぶ姿が描かれる。
「この二つのパートの構成は大森さんの発明。とても豊かな物語になっている。従来の大河ファンに喜んでもらえるような、当時の日本が抱えた大きな政治のドラマと、登場人物の愛憎劇や家族の物語が(栄一が慶喜の家臣となる)第12回くらいで融合していきます」と菓子チーフプロデューサーはPRする。
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