※映画のレヴュー記事にはネタバレにつながる描写が含まれていることがあります。十分にご注意ください
映画『ワンダーウーマン 1984』は、当初は2019年12月に公開予定だった。事業に失敗したビジネスパーソンがテレビのパーソナリティーになり、その貪欲さと傲慢さで世界を核による絶滅の危機寸前まで追い込むというストーリー展開である。
17年の映画『ワンダーウーマン』の続編であるこの作品では、主演のガル・ガドットがダイアナ・プリンス(別名はセミッシラのプリンセス・ダイアナ/ワンダーウーマン)を演じている。ダイアナはスミソニアン博物館のアーカイヴ部門で働きながら、目立つ行動は控え、たまに軽犯罪を阻止するという役回りだ。
『ワンダーウーマン』以外のDCエクステンデッド・ユニバース(『バットマン vs スーパーマン』と『ジャスティス・リーグ』)でワンダーウーマンが登場する事件は、まだ何年も先のことである。しかし、ワンダーウーマンを主人公にした最初の映画で、第一次世界大戦中を舞台に起きた事件からは数十年が経ち、ダイアナはまだ米国人パイロットのスティーブ・トレバー(クリス・パイン)に恋い焦がれ、その死に悩まされている。
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ところが、クリステン・ウィグが演じるスミソニアン博物館の同僚で不器用な宝石学者のバーバラ・ミネルヴァが、持ち主の望みを何でも叶える力をもった危険な遺物を偶然見つけると、その状況が変わる。
スター・ウォーズの実写版ドラマ「マンダロリアン」に登場し、ヘルメットで表情の見えない主役として最もよく知られているペドロ・パスカルが演じる卑劣な石油王のマックス・ロードも、その遺物を狙っている。度を超した喜びをにじませるマックスを止められるかどうかは、ダイアナにかかっている。
そこから80年代のあらゆるお決まりのストーリー展開のパターンを利用して、ストーリーは予想通りに展開されていく。
80年代のステレオタイプ
この舞台設定(想像の通りに1984年だが、ジョージ・オーウェルの『1984年』で描かれたような監視管理社会はまったく出てこない)では、衣装デザイナーは思う存分に楽しめるチャンスがたくさんある。レッグウォーマー、パステルカラー、体にフィットしないピンストライプスーツがたくさん登場するのだ。
例えば、90年代を比較的控えめに描いた『キャプテン・マーベル』とは異なり、この映画ではすべてに過度のやりすぎ感がある。ヒョウ柄のヒールや角ばったスポーツカーのクローズアップショットなど、正確な描写というよりは寄せ集めのように感じられるほどだ。でも、それがまさに80年代の現実だったのかもしれない。
ストーリーの展開パターンも80年代のステレオタイプの寄せ集めである。冷戦時代のミサイル攻撃、ラヴコメの変身、軽い入れ替わりコメディ、さらにはファッション選択のモンタージュまである。しかし、この映画から受け取れる大きな道徳的メッセージがあるとすれば、それは80年代を象徴する消費主義の否定だろう。映画の最後で「貪欲は悪」であると伝えられる。わたしたちを救うことができるのは愛だけなのだ。
最終的にこの映画は、時事問題(当初の公開予定日以来、世界はかなり変わった)という点からのみならず、キャラクターと世界観を共有するほかの作品と比較した場合においても、ややずれているように感じられる。マーベルは異なるジャンル間を容易に跳び回ることができるが、同じことをしようとするDCの試みは支離滅裂に思えるのだ。クリストファー・ノーラン監督の『ダークナイト』で設定されたラフなテンプレートから抜け出せなくなり、ストーリーには必要な軽快さとユーモアに欠けている。
米国などでは配信サーヴィスと同時公開に
こうした欠点にもかかわらず、この映画は視覚的に大きな魅力があり、楽しく数時間を過ごせる娯楽映画だ。迫力のある戦闘シーンと、伝説的な映画音楽作曲家ハンス・ジマーによる気分を高揚させる音楽を楽しめる。
そして、この映画は大スクリーン向けだ。平時なら、おそらく興行収入の面でも十分に成功したことだろう。パンデミックの最中であっても、一部の人々を映画館に呼び戻すことはできたかもしれない。
しかし、米国とその他の多くの地域では、『ワンダーウーマン 1984』は劇場公開と同時に動画配信サーヴィス「HBO Max」で配信される。この決定によって業界には衝撃が広がった。
なかでも英国ではHBO Maxがサーヴィスを提供していないので、ソーシャル・ディスタンス(社会的な距離)を確保した上で古きよき時台ならではの劇場公開となった[編註:日本でも12月18日に劇場公開]。ポップコーンを新型コロナウイルスの“侵入口”に詰め込むときを除けば、常に顔をマスクで覆う必要がある。
公開のタイミングは最悪と言っていい。当初の19年12月から2020年夏に延期され、そしてとうとう20年12月に公開となった。英国での公開日である12月16日には、英国の新型コロナウイルスの警戒レヴェルは3段階で最も厳しい「最高」に引き上げられ、数百万人が影響を受ける。
映画館が閉鎖されたことで、見込み観客数は大幅に減る。『ワンダーウーマン 1984』という1984年を舞台に2019年の不安を描いた映画は、異常な無人地帯から抜け出せないまま、2020年の公開で“麻痺”状態に陥ることになってしまったのである。
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